岸信介元首相が晩年をすごした自邸「東山旧岸邸」。
建築家・吉田五十八の晩年の作品として、建築的特徴をご覧いただくことができます。

東山旧岸邸

2024.4.12 2018.12.12
東山旧岸邸

ご案内

岸信介きしのぶすけ元首相が晩年をすごした自邸

「東山旧岸邸」は1970(昭和45)年、岸信介元首相が73歳のときに、この地へ転居し晩年の17年間をお過ごしになられた邸宅です。
岸元首相が1987(昭和62)年に亡くなられた後は、2003(平成15)年に御殿場市に寄贈され、一般公開されるようになりました。

建築家・吉田五十八よしだいそやの晩年の作品

邸宅は建築家・吉田五十八氏の晩年の作品で、1969(昭和44)年に建てられました。
伝統的な数寄屋建築の美と、現代的な住まいとしての機能の両立を目指して設計され、施主である岸元首相の生活にも配慮されています。
また、工業生産材料の使用、各部屋の障子の荒組、和室の欄間の吹き抜けなど、吉田氏の建築的特徴を見ることができます。

現地レポート

「東山旧岸邸」の看板案内図

東山旧岸邸 看板案内図
駐車場

「東山旧岸邸」は「とらや工房」に併設され、同じ駐車場を利用します。

東山旧岸邸

「とらや工房」のシンボルとなっている茅葺の山門をくぐり、散策路を道なりに進みます。

東山旧岸邸

途中にある東屋を過ぎてしばらく進むと「東山旧岸邸」の案内看板があります。

東山旧岸邸

「東山旧岸邸」は、1969(昭和44)年に建てられた建築家・吉田五十八氏の晩年の作品です。
伝統的な数寄屋様式と、近代的な住まいの機能を融合させた近代的数寄屋建築の特徴を多く見ることができます。

東山旧岸邸

邸宅の玄関前には、広めのロータリー。
その中央には、椿としては珍しいほど大きな「太郎冠者たろうかじゃ」が植えられています。

東山旧岸邸
樹齢400年の太郎冠者

この椿は樹齢400年で、国内で現存する太郎冠者の中でも最長寿に近いと云われています。
もともとこの椿は、市内の民家に植えられていたものでした。
岸元首相は生前、この椿をとても気に入り所望されていましたが、その民家で代々受け継がれてきた大事な椿だった為、それは叶いませんでした。
しかし、新東名高速の建設工事による伐採の危機から免れるため、2016年3月、この地へ移植されることになりました。
岸元首相がお亡くなりになられてから約30年後、生前の願いが叶うことになったのです。

東山旧岸邸

訪れたのは12月の中旬でしたが、ちらほらピンクのかわいらしい花が咲いていました。
例年2月中旬~3月中旬に見頃を迎えるそうです。

東山旧岸邸

それにしても御殿場市では、沿道や民家の庭に生えている椿をよく見かけます。
約1,300年前の文武天皇の時代、無実の罪で伊豆大島に流罪となった役の行者が、そこに咲く椿を富士の麓にも咲かせたいと考え、帰郷後、種を蒔いて周ったと伝えられています。
それ以降、椿は御殿場に根付き、その実から搾った油を整髪用や食用にも利用していたそうです。
また、標高450~650ⅿに位置する御殿場では暴風防寒や、茅葺屋根の防火用にも椿が重宝されていたようです。

東山旧岸邸

ロータリーのすぐ脇には、身障者用の駐車場。
「とらや工房」の庭園を横切らなくても直接来ることができます。

東山旧岸邸

見学の際、まずは写真左手の建物で入場料を支払います。
もともと、ここには管理人室と車庫がありましたが、一般公開するにあたり現在の事務所に建え替えたそうです。
お支払い後、写真右手の建物へ入場します。

東山旧岸邸

受付所の脇には売店もあり、富士山グッズや「虎屋」の羊羹も購入できます。

東山旧岸邸

見学する建物には入口が2つありますが、右が正面玄関で公人用。
左は使用人用として使われていたそうです。
見学の際は、正面玄関から入場します。

雨の日は滑る危険がある為、使用人用の玄関をご案内することもあるそうです。

東山旧岸邸
玄関ホール

広い玄関ホールには、応接セット。
この椅子は、建築家・吉田五十八氏がデザインしたものだそうで、脚の部分が竹でできています。

東山旧岸邸
書斎兼応接間

「玄関ホール」の北向きにあるお部屋は10畳の「書斎兼応接間」。
落ち着いた木目の壁材には胡桃が使われており、使い込むほどに光沢が出てくるそうです。

東山旧岸邸
水屋

和室に向かう廊下の端には「水屋」があります。
床に12㎝の縁を付け、水が跳ねにくいように工夫されています。

この廊下は現在、バリアフリーに配慮し、段差のないフローリングとなっていますが、もともとは1段低い土間となっていました。
和室へ向かう際、気持ちを切り替える効果を狙っていたそうです。

東山旧岸邸
和室

欄間や吊束のないスッキリとした印象の和室です。
写真右手の地袋にはヒーターが隠されています。
地袋は木製でなく鉄製の枠とアルミで出来たモダンなデザインですが、和室にもしっくりと溶け込んでいます。

東山旧岸邸
縁側

縁側からの眺めは、心和む和の庭園。

東山旧岸邸

庭園の石灯篭は、吉田茂元首相がもともと所有していたものだそうです。

東山旧岸邸

庭園から眺めた和室の様子。
和室の軒先には雨樋が無く、軒先から落ちる雨を楽しんでいたそうです。
風流ですね。

東山旧岸邸
居間

「玄関ホール」からすぐの場所にある「居間」。
28畳の居間には20畳の絨毯が敷かれ、ゆったり寛げる広さになっています。

東山旧岸邸

居間の照明は、建築家・吉田五十八氏のデザインによるもの。
特注で作った鋳物の装飾が施され、存在感があります。
ただ、個人で蛍光灯を交換することが難しく、毎回業者さんに頼んで交換してもらうそうです。

天井には塩化ビニールが使われていますが、部屋の雰囲気にうまく溶け込み、聞かないと気づきません。
数寄屋建築に工業生産材料を積極的に取り入れ融合させる吉田氏の建築手法の1つです。

東山旧岸邸

居間のテーブルは鏡面仕上げ。
テーブルに反射する庭園の景色も楽しめます。

コーナーの掃き出し窓は全開でき、開けると庭園との一体感が味わえます。
岸元首相はコーナー近くに置かれたソファに座って、庭を眺めるのがお好きだったそうです。

東山旧岸邸

コーナーにあるサッシレールの様子。
すごい数です。
外側から雨戸3枚、網戸2枚、ガラス戸3枚、障子3枚、なんと11枚分あります。

東山旧岸邸
食堂

12人座れる大きなテーブルでは、要人をもてなすこともあったそうです。

壁面には、黄金が眩しい蒔絵装飾。
明治座の緞帳デザインや外務省飯倉公館ホールの壁面画などにも携わった縣治朗あがたじろう氏よるものです。

東山旧岸邸

食堂で目を奪われるのは、絵画のような庭園の景色。
幅5ⅿほどある掃き出し窓は、障子・ガラス戸・網戸・雨戸のすべてが収納できる押込戸になっています。

岸元首相はこの食堂で、3年かけて1,150枚の写経を行い、昭和61年に高野山に奉納なさったそうです。
その1枚を拝見しましたが、印刷じゃないかと目を疑うくらい整った文字でした。
それを1,150枚書き上げたなんて、気が遠くなる話です。

東山旧岸邸
庭園

小川の流れる美しい和風庭園ですが、実はこの小川、自然のものではなく、井戸の水をポンプでくみ上げ循環させているそうです。
普段は水を止めていますが、海外から来賓が訪れたときなどに、水を流しておもてなしをしたそうです。

東山旧岸邸

庭の奥には、小さな滝。

東山旧岸邸

その滝の近くには、もとは伊藤博文元首相が所有していた石灯篭があります。

東山旧岸邸
厨房

当時、斬新なデザインのキッチン。
これだけ多くの棚があると、収納に困らなそうですね。

東山旧岸邸

火災の出やすい厨房の入口には、シャッターが設置されています。
いざというとき、火災の熱でシャッターを固定している鉛が溶け、自然とシャッターが降りてくる仕組みとなっていました。

東山旧岸邸

厨房で目を引くのが、ズラッと並ぶ配電盤スイッチ。
その右側には、呼び出しサインボード。
呼び出している場所のライトが点くようになっています。
これだけ広い邸宅ですもの。
無ければ、女中さんも探し回ってしまい大変です。

東山旧岸邸
女中室

当時、3人の女中さんがいて、そのうちの1人は住み込みだったそうです。

東山旧岸邸
階段

2階は寝室や浴室、倉庫として使われていたプライベート空間で、通常は非公開となっています。

「東山旧岸邸」では、あらゆる角度から考察し計算しつくされた吉田五十八氏の建築手法の数々を見ることができます。
伝統的な数寄屋建築と近代的な住宅機能の融合、プライベートとパブリック部分の調和、岸元首相の生活への配慮など。
それら全てを実現するために、新しい資材を積極的に採用したり、伝統的な装飾を省いたり、それまでの数寄屋建築には見られない大胆な発想が、素人の私から見ても見事なものだと感心してしまいます。
ただ、個人で見て周ると、それになかなか気づけません。
タイミングが良ければボランティアガイドさんがいらっしゃいますので、案内を聞きながら見学して頂くのがお勧めです。
私もボランティアガイドさんの説明がなければ、サクッと見て帰ってしまうところでしたが、声をかけて頂き案内に感心しながら見学させて頂きました。

東山旧岸邸

基本情報

住所 静岡県御殿場市東山1082-1
TEL 0550-83-0747
FAX 0550-83-0778
お休み 毎週火曜日(祝日の場合は翌日)
12/29~1/3
営業時間
4~9月 10:00~18:00
10~3月 10:00~17:00
駐車場 有り(無料)
アクセス

東名御殿場ICから約2Km(約5分)

JR御殿場駅から富士急バスで「御殿場駅~東山循環」乗車「東山」下車(約18分)

料金 大人 ¥300 小中学生 ¥150
サイト ホームページ Instagram
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    お出掛け前に、現地にご確認ください。

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