伝統的な日本建築の装飾が随所に施された「豊門ほうもん会館」の旅レポート

豊門ほうもん会館

2024.10.29
豊門会館

ご案内

地域と共に歩んだ歴史遺産

豊門ほうもん会館は、富士紡績株式会社の発展に貢献した和田豊治とよじが向島に建てた邸宅を移築したものです。
1896年、東海道線開通と豊富な地下水を活用しようと小山町に富士紡績が創業しましたが、当初は経営が振るわず倒産寸前の状態になっていました。
そこで招かれたのが、当時の敏腕経営者と称された和田氏です。
わずか数年で黒字転換に成功し、会社を一躍軌道に乗せた和田氏は、地域の発展にも大きく寄与しました。

和田氏が自身の邸宅を「従業員や地域の人々のために」と遺言したことによって、1925年に向島の邸宅が小山町の豊門ほうもん公園に移築されました。

公園には更に西洋館や噴水泉など、和田氏の意向で整備された文化財が点在しており、これらは2005年に国の登録有形文化財に指定されています。
豊門ほうもん会館は近代産業の発展とともに歩んだ小山町の象徴として、今も多くの人々に親しまれています。

和と洋の調和が織り成す邸宅

和洋折衷の建築スタイルが魅力の豊門ほうもん会館は、和館の重厚な木造建築とサンルーム付の洋館を組み合わせた和洋並列型住宅です。
自然とのつながりを大切にする為、庭園に面した座敷と縁側が雁行がんごう形に配され、庭園との一体感や優しく差し込む自然光が楽しめる造りとなっています。
また、和館の上質な書院造や洋館の豪華な漆喰天井、寄木細工の床など、匠の技が光る装飾や吟味された素材の良さが、さらに建物の魅力を引き立てています。

豊門ほうもん会館は、関東大震災や東京の空襲といった災害を逃れた奇跡的な建物で、当時の上流階級の住居文化を現代に伝え続けている貴重な存在です。

筆跡が語る、偉人たちの社交場

豊門ほうもん会館には、渋沢栄一や勝海舟、佐久間象山しょうざんといった日本史に名を刻む錚々たる人物の書が展示されており、当時の偉人たちの事跡がこの建物の歴史的価値をさらに高めています。
これらの貴重な書は、豊門ほうもん会館が長い歴史と人々の縁をつなぐ場所であることを物語っています。

1896年
(明治29年)
富士紡績株式会社設立。
富士山系の豊富な水源と東海道線の開通により小山町が選ばれる。
1898年
(明治31年)
富士紡績の操業が開始されるが、利益が低迷し、経営が不安定な状態が続く。
1901年
(明治34年)
和田豊治とよじが専務取締役として就任し、経営再建に着手。
翌年には累積赤字を解消し、会社を黒字化させる。
1909年
(明治42年)
和田豊治とよじが東京都向島に自邸を建設。
後にこの邸宅が豊門ほうもん会館として小山町に移築されることとなる。
1925年
(大正14年)
和田氏の遺言により、向島の邸宅が小山町に移築され、「豊門ほうもん会館」として従業員や地域住民の福利厚生施設となる。
2004年
(平成16年)
富士紡績株式会社が小山町に豊門ほうもん会館を譲渡。
2005年
(平成17年)
豊門ほうもん会館や西洋館、正門、噴水泉などが国の登録有形文化財に指定される。
2021年
(令和3年)
豊門ほうもん会館が第14回静岡県景観賞優秀賞を受賞し、地域の文化遺産としての価値が再評価される。

現地レポート

豊門ほうもん会館」の看板案内図

豊門会館 看板案内図

豊門ほうもん会館」は「小山町役場」から北側の小高い丘にある「豊門公園」内に建っています。
駐車場は、「小山町立成美せいび小学校」に隣接した場所にあります。

豊門会館 駐車場

公園は、幾何学的な配置が施された西洋風の庭園で、緑豊かな芝生と美しい植栽が広がっています。

豊門会館 公園

そんな公園の東端に佇む重厚感ある建物。
ここが「豊門ほうもん会館」です。

豊門ほうもん会館は和と洋が調和した和洋並列型住宅となっており、当時の上流階級が求めた理想的な住空間を、現在に伝える貴重な文化財となっています。

豊門会館 建物

玄関を境に、右手はクラシックな欧風の雰囲気が漂います。
サンルームや出窓が特徴的な洋館となっています。

豊門会館 洋館

一方、左手は日本の伝統美が感じられる和館となっています。

豊門会館 和館

和の空間を引き立てる重要な要素として、表玄関の扉には双折桟唐戸さんからどが使われています。
木製で格子状のデザインが施されたこの扉は寺院や神社でよく見かけますが、ここでは珍しく屋敷の玄関扉として使われています。

豊門会館 表玄関の扉

玄関を入ると、上がりかまち右端に「登録有形文化財」の表示板をご覧いただけます。

豊門会館 玄関

正面には「豊門ほうもん会館」の扁額が掲げられ、訪れる人々を出迎えます。
これは、渋沢栄一が92歳で残した作品です。
渋沢栄一と和田豊治とよじは共に日本の近代経済の発展に寄与した偉大な実業家ですが、渋沢の孫である敬三氏が結婚する際、和田豊治とよじが媒酌人を務めるなど、ビジネスだけでなく個人的なつながりをもっていました。
残念ながらこの書が書かれたときには、和田豊治とよじはすでに亡くなっていました。

豊門会館 渋沢栄一の扁額

玄関土間に続く和室には、富士紡績(株)の発展に寄与した人々の写真が飾られています。
中央の目を引く写真が、和田豊治とよじです。

豊門会館 和田豊治

展示ギャラリーの様子。
ここは、もともと応接間として使われていましたが、現在は富士紡績株式会社や和田豊治とよじの足跡について紹介する展示コーナーとなっています。

豊門会館 展示ギャラリー

廊下を抜けた先には洋間があり、それまでの落ち着いた空間から一転、華やかな装飾に目を奪われます。
お洒落な内装と洗練されたインテリアが上質な空間を演出し、まるで外国の邸宅を訪れたよう・・・。
大きな窓から差し込む自然光が空間をさらに明るく彩り、居心地の良い空間を作り出しています。

豊門会館 洋間

床には、異なる種類の木が組み合わされた寄木細工の装飾が施されています。
温かみのある色合いと緻密なデザインが特徴で、歩く度に様々な木の表情を楽しむことができます。
豊門ほうもん会館に訪れた際には、この素晴らしい床にもぜひ注目してみてくださいね。

豊門会館 寄木細工の床

壁紙は愛らしい花柄のデザインが施され、明るく華やかな雰囲気を醸し出しています。
空間を引き締めるアクセントとして存在感を放っているのが、大理石のマントルピース。
暖炉を囲む装飾的な架台で、クラシカルな印象を与えると共に家全体に洗練された印象を与えてくれます。

豊門会館 大理石のマントルピース

天井に施された漆喰塗りの質感が、視覚的な興味を引き立てます。
さらに、繊細さと優美さを感じるモールディングの華やかな装飾が空間に深みを与え、見る人を惹きつけます。

豊門会館 漆喰塗りの天井

サンルームから見た洋間の様子。

豊門会館 洋間

洋間を抜けると、サンルームがあります。
ここは、植物好きな和田豊治とよじのお母様のために設計されました。
入口の木の床材は大理石で仕切られ、周りのタイル部分と区別されています。
タイル部分に植物を置き、板の間からそれらの植物を眺めていたそうです。

豊門会館 サンルーム

このサンルームは建物建設時(1909年)にはありませんでしたが、1923年の園遊会の写真には写っており、100年以上の歴史を誇ります。
当時、ガラスは非常に貴重で、和田家がいかに財力があったかを物語っています。

豊門会館 サンルーム

1階では他にも3室の座敷が公開されています。
座敷には多くの書画が飾られ、幕末から明治時代にかけて活躍した浮世絵師・河鍋暁斎かわなべきょうさいや明治から昭和にかけて活躍した評論家・徳富蘇峰とくとみそほうなど著名な方々の作品をご覧いただくことができます。

豊門会館 1階 和室

縁側は、座敷に沿う形で鍵型に連続し折れ曲がっています。
これは庭園との一体感や優しく差し込む自然光を楽しむ為、自然とのつながりを大切にした設計となっているからです。

また、縁側の床は外側に向かって緩やかに傾斜しており、排水や美観を考慮した設計がなされているそうです。

豊門会館 縁側

雨戸を収納する戸袋はコンパクトに設計され、視界の邪魔にならない様に配慮されています。

この縁側に座って日向ぼっこをしたら、時間が経つのを忘れてしまいそうですね。

豊門会館

さあ、お次は2階へ向かいます。
カーブを描く階段の手すりは、一本の木材を贅沢に使用してできており、その下方には蕨手わらびてと呼ばれる装飾が施されています。
精緻な職人の技巧をご覧いただける館内の見どころのひとつです。

豊門会館 階段

階段が苦手な方は、エレベーターもあるのでご安心ください。

豊門会館 エレベーター

2階には、8畳と10畳、15畳の座敷の他に4畳の次の間があります。
これらの空間を仕切る障子はイベント時には外され、大空間を作り出すことができます。

豊門会館 2階 和室

8畳和室の床の間には、江戸時代末期の思想家であり武士や兵学者としても活躍した佐久間象山しょうざんの書が飾られています。
この書は勝海舟から富士紡績の初代会長である富田鉄之助に譲られたものと云われています。

豊門会館 佐久間象山

こちらの床の間で注目してほしいのは、1本柱に施された八掛はっかけの装飾。
1本柱の上部は塗りで隠されていますが、小襖部分では木材の通しを見ることができ、職人の細やかな意匠が光ります。

豊門会館 八掛

こちらは「豊門ほうもん会館」で最も格式高い15畳の和室。
左右に床脇が設置された伝統的な書院造りが備わっています。
黒漆塗りの薄縁床が、控えめながらも品格を感じさせます。

豊門会館 書院造り

書院の欄間に掲げられた書は、勝海舟の筆によるもの。

豊門会館 勝海舟

六合山荘とは、富士紡績の初代会長・富田鉄之助が小山町に構えた住居のことです。
彼は勝海舟の高弟でもありました。
2人の深い絆が感じられます。

豊門会館 六合山荘

2階もギザギザに折れ曲がった形で縁側が設置されており、庭園の眺望を楽しめます。
緑が目に飛び込み、壮観な眺めですね。
現在はご覧いただけませんが、以前はここから鮎沢川の上流と下流にあった富士紡績の小山工場全景を見渡せたそうです。

豊門会館 2階 縁側

外から見た2階縁側の様子。

豊門会館 縁側

豊門ほうもん会館は、伝統的な日本建築の装飾が随所に施されています。
精緻な造作が施された階段、洋館の天井漆喰やサンルームなど、館内の至る所に細やかな意匠が光り、訪れる者を魅了します。
日本の伝統建築美を再発見しに、出掛けてみませんか?

豊門会館

基本情報

住所 静岡県駿東郡小山町藤曲144‐8
TEL 0550-76-5722 (小山町 生涯学習課)
お休み 毎週火・水曜日 (祝日の場合は翌日)、年末年始
営業時間 10:00~16:00
料金 ¥300
駐車場 有り(無料)
アクセス

東名足柄スマートICから約7Km(約13分)

JR駿河小山駅からコミュニティバス乗車「豊門公園」下車

サイト
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